Z06実走レポート No.12
水温管理
Z06が納車されてから丁度1年が経過した。走行距離は5100kmでエンジンの慣らしが、ほぼ完了したところだが、一年を通じてルーフパネルの剥がれリコール以外は特に大きなトラブルも無く好調だ。
強いて言えば水温が高いのが気になるが、低温サーモスタット、大容量ラジエター、ボンネット裏面の加工等熱対策を施す事でかなりの改善結果を得ている。カントリーロードでの通常走行では、気温25~28度の状態で水温84度前後、油温95度程度を維持している。
高速道路を流せば水温80度~82度程度で安定し、余程の渋滞に遭遇しない限り95度を越す事が無くなった。水冷式OILクーラーの恩恵で油温は水温プラス10~15度程度だ。
黒色のZ06としては良い数値と思う。余談だが、夏場の炎天下で車体色別の車体表面温度を測定した経験がある。外気温35度で白色のコルベットの表面温度は37度程度だったが、黒色のコルベットは75度を超え、何と40度近い温度差を確認した。渋滞時には車体色による影響が少しはあるかもしれない。
7Lで500馬力超の大排気量エンジンを小さな車体に搭載しているZ06は、基本的に夏場は弱いと考えるべきだ。先日来社されたZ06オーナーから渋滞で水温が120度に達したとの話を聞いたが、流石に120度は要注意だ。渋滞時の経験だが、Z06の冷却ファンはエアコンを作動させた状態の方が水温を低く抑える事ができるようだ。エアコンを作動させない状態では、冷却ファンは108度辺りまで作動しない設定らしい。因みにシボレーのレーシングエンジンのベンチテストでは、水温は常に70~80度に設定される。水温が100度を越えた状態は、「設定外」となり、出力の測定やマップの作成は行わない。水温が高くなる事でノッキングが発生しやすくなり、ECMは点火タイミングをリタードさせ結果として出力低下を招く。最悪の場合はエンジン破損に至るからだ。
これも経験だが、LT5エンジンを搭載してサーキット走行テストを1991年頃から繰り返し行ってきたが、当初10ラップ辺りを越えるとエンジンの伸びが悪くなる傾向が頻繁に表れた。データロガーを搭載して原因を調べた結果、水温の上昇→ノッキング発生→点火タイミングリタード→出力低下と判明した。とにかく大排気量エンジンのZ06では、適切な水温管理をすることが不可欠と断言できる。
高速での安定性
Z06における高速での安定性問題対策としてアンダーボデー(車体裏面)の整流加工を行った。今の所、前後オーバーハング部の平滑化のみ完了した状態だが、明らかな改善が確認できた。またフロントオーバーハング部の改善に伴い、ラジエター下部の整流板も装着した。写真で分るように中央部ラバースポイラーは取り外している。ビルシュタイン製ショックアブソーバーへの交換と、前後オーバーハング部の平滑化を施す事で安定性改善の確実な効果があった。これらの作業は、効果が期待出来る割りに費用的にも大きくないのでお奨めだ。
マフラーに関して
マフラー試作とテスト走行を繰り返し行った。アイドリングではノーマル並に静かで、2000回転近くでのこもり音は極力抑え、低中回転でのトルク痩せも無く、高回転では甲高く豪快に吹け上がり600馬力以上対応可能である事を目標に開発した。困難を伴ったが、何とか完成にこぎつける事が出来た。まずアメリカ製のマフラーでは、やはりBorlaが総合的に秀でていた。実用的な音量とこもり音の少なさで乗り易く、580馬力程度までの容量が有る事がテストの結果確認できた。Borlaは装着重量が約14kgとノーマルマフラー重量より40%軽量の割には消音効果があった。但し6000回転辺りからの伸びが鈍くなる傾向が顕著だ。テーパー形状の内部構造が消音には効果的だが、高回転での排気抵抗になっているようだ。他のアメリカ製マフラーもテストした。高回転での出力アップは確認できたが、音量特にアイドル時と1600~2000回転でのこもり音がいずれも大きく、総合的な評価としてはBorlaを下回った。日本人の求める出力、音量、音色を既製アメリカ製マフラーに求める事に無理があるのだろう。
さて、ようやく完成したWESTマフラーだが、音量別に3タイプを設定してまもなく発売する。最も静かな標準タイプ、やや大きい排気音のアグレッシブタイプ、軽量で最も高出力の競技仕様となる。最も静かな標準タイプでも確実に650馬力対応の容量を確保した。従来の市販Z06用マフラーとは、次元の違うレベルになった自信作だ。材質はSUS304、全て日本国内での製作で、溶接箇所の奇麗さ、曲げパイプの形状等比べて見て頂きたい。例えば標準タイプは、Borlaとほぼ同重量ながら、こもり音とアイドリング時の音量をより抑えた。また高回転域は適切な排気管サイズと曲げ形状で650馬力に対応できるよう工夫した。実際マフラーの開発には、これまでにない試作とテスト走行を繰り返し行った。7Lの排気量で11:1の高圧縮、3インチ76.3mm2本の排気管、35cmX35cmX30cmの十分とは云えないマフラースペース。その中で十分な消音効果と、相反する高出力を得ることの難しさを痛感した。以前製作したC5用マフラーは、同じLS1でも5.6Lエンジンの消音は遥かに容易だった。7Lエンジンは出力も大きいが、音量も大きい事を再認識させられた。尚、WEST本社工場では、当社Z06テスト車にこのマフラーを装着し、実際に排気音を体験頂く試乗サービスを実施中です。
開発に関して
これも余談だが、国内でのコルベット用のマフラーやショックアブソーバーを製作した場合、試作とテストを繰り返して開発する事が省かれている場合が多いと思う。外観は立派に見えても、実際に走行すると音量が大きいだけで、トルクが無いマフラーや、固く低いだけで乗り難いサスKITやショックを散見した。
まずマフラーの場合は、ノーマルマフラーやアメリカ製マフラーの形状を真似て、同サイズもしくは、やや太目のパイプを用いる。マフラー本体は基本的にTurbo用のストレート構造マフラーを用いて製作する。試作や開発は行わず、出来合いがそのまま商品となる。さて出来上がったマフラーだが、低音は強調されているが、こもり音は大きくトルクに関してはノーマルより痩せ、高回転はよく伸びるようだが、総合的には乗り易くない物に仕上がってしまう。それでもステンレス製マフラーなのでまあいいか、といった所で妥協しているケースが多いようだ。
またショックアブソーバーに於いても同様だ。まずノーマルショックアブソーバーの減衰力を測定して、それよりもやや強めに設定する。次に本体の寸法形状を合わせてシェル等を製作し完成となる。やはり開発といえる開発をせずそのまま商品となっている。この場合もマフラーと同様で、「有名ブランドのショックをコルベット用に特注した。」までで終わっている場合が多い。実際にテスト走行で乗り味の変化、またサーキットに持ち込みラップタイムのを確認する等開発は行わず、単に装着した満足感で中断している。これでは50%の完成度だ。確かに販売数量が少ないコルベット用パーツの開発には困難さがあるのは事実だが、供給する側は責任を持って開発し、「本当に安全で効果のある物を供給する」基本理念が必要だろう。
因みに国産車チューニングショップやポルシェショップにおいては、自社テスト車輛保有率は100%に近い。ところがコルベットショップにおいては、テスト車輛を保有するショップは2~3社程度しかない。例えばサーキットに行けば、タイヤメーカーやチューニングショップのテストに遭遇する事が良くある。当然テストには、専門のプロドライバーを雇いデータ取りや走行テストを行うが、それが良い商品開発には不可欠であると考えてきた。これまでの十数年において、鈴鹿サーキットや岡山国際(T&I)でコルベットテストを繰り返し行ったが、他社のコルベットテストに出会った記憶は無い。
アメリカ製アフターマーケット部品に関して長年の経験で感じた事
アメリカでは当然、コルベット用ショックアブソーバーKITやブレーキKITは販売されている。これらを輸入し装着するのは簡単だが、日本人の求める品質や日本のチューニングレベルで考えると、煮詰めが今一歩と感じる商品が少なくない。日本人とアメリカ人の考え方の違いに起因する仕様の違いもあるようだ。タイヤ性能ひとつ見ても日本製が優れている。アメリカ製部品に関しては、コスト面等優れている点も多々あるので、よく見極めて上手く使用するのが賢明だ。26年間の営業経験で、数多くのアメリカ製部品に関して装着経験があるが、印象は悲喜半々といったところだ。それでもコルベットが好きで30年以上乗り続け、懲りずに色々な部品を輸入しては装着を繰り返した結論だ。
Z06との一年
この一年間、ほぼ毎日Z06に関わってきた。天気がよく、時間がゆるせば必ず走行した。ショック、スタビ、マフラー、水温、安定性確保、出力アップ、等やはり自分で走り、感じる事が不可欠で良い商品開発に繋がると信じている。Z06はノーマルでも十分速く楽しい車だが、この一年間の下記の改善等でより速く面白くなった。
(1). まず車高、前述した通りだが、1インチ弱の車高調整でより乗り易く速く、格好も良くなる。車高調整が正しいか否かは、上下アームの角度、ドライブシャフトの角度を見ればZ06本来の設計思想が見えてくるはずだ。コルベット開発陣の拘りの設計と感謝している。またアライメント数値をノーマルより若干変更する事で、よりコーナーと高速での安定性が確保出来た。それと後輪伸び側の減衰力の高いビルシュタイン製ショックアブソーバーに変更した事で、加速時と高速における安定性が格段に増した。
(2). 給排気の改善で、約550馬力が可能になった。高効率エアークリーナーとエキマニ(タコ足)と高効率マフラーの装着で達成出来た。またダイナモによる馬力測定で装着前後の出力差の確認もした。一般的には、この550馬力仕様が最も乗り易く速い。但し熱対策は不可欠で、最低でも低温サーモへの交換と大容量ラジエターは装着したい。
(3). バネ下重量の軽減で、より速くしなやかな乗り味になった。具体的には軽量な鍛造TE37ホイールへの交換と、高性能タイヤの装着。またブレーキパーツを交換する事で重量軽減できた。実際、これらの交換だけで40kg近い軽量化が達成できた事に驚く。また、BremboからZ06用高性能ブレーキKITが発売になった。6/4ピストンキャリパーで制動力はさほど変わらないが、重量軽減効果が期待出来るだろう。それとダストで汚れがちなノーマルブレーキパッドの交換用パッドを設定した。ノーマルより価格的にもお買い得、かつ汚れの少ないパッドで同等の制動力を確保した製品だ。Z06用TE37ホイールは398,000円で発売中。ノーマルと同サイズで、オフセットは若干外側に出る様設定した。
(4). 一般走行ではエンジンOILは純正指定のMobil1で5W30が無難。絶対に高粘度のエンジンOILを使用する事には慎重になるべきだ。またミッションOILも純正指定が無難。但し、ミッションの異音が気になるようなら、日本製低粘度ギアOILを使用する事で異音低減効果が期待出来る。
(5). 足が速くなった理由。ゲトラグ製LSDをOS技研製スーパートラクションLSDに交換した。FR(フロントエンジン リアドライブ)のZ06には、もちろんトラクションコントロールが標準装備されているが、1速、2速での全開加速にはスピンを伴う。もしZ06で、スピンが発生しないようなら、ディーラーにて点検の必要が有るだろう。パワーが出ていれば、3速でもスピンを伴いながら加速するのがZ06本来の走りだ。
さてC5,C6に標準装着のゲトラグ製デフになってからは、以前のC4時代のDana44に比べて格段に良くなったが、Z06には容量が疑問だ。前述したマフラー音量もそうだが、5.6Lと7Lでは実際の排気量差以上の違いがあるように感じる。前置きが長くなったが、OS技研製のスーパートラクションLSDを装着してから下記の変化が確認できた。もちろんタイヤ、ホイールは交換せず同じものでテストした。
まず、当然だが1速での加速が確実に速くなった。正確に表現すると、1速加速時でのスピンが減り、スピードの乗りがより良くなったことだ。同様に2速にシフトアップ直後の不安定さも減少して、結果として踏み続ける事が車速の伸びに繋がったようだ。このLSDの特徴だが、100%ロックながら不快な作動音等が一切感じられない。これも従来のコルベットのLSDから見れば驚きである。因みに倍近いクラッチ板の容量があるが全くスムーズでLSDの装着すら感じないのが率直な印象だ。
それと高速走行での安定性が増したように感じた。また燃費が良くなったとの声も聞いた。共にパワーが、より有効に伝達される事が起因しての好結果だろう。納車直後に装着して、1年間5000km近く走行したが、全く順調でトラブルは一切無い。唯一のメンテナンスは、装着後1000~1500kmでのデフOIL交換だけが必要だ。このOS技研製LSDは、アメリカ車用としては一部C3とC4、C5、C6とViper用が設定されている。もちろん日本車、ヨーロッパ車用は以前から設定が有り、チューニングカーやレース等でも使用されているのは周知の通りだ。先日インデイアナ州のLPE(Lingenfelter)から依頼があり、メーカーよりサンプルLSDが送られた。U-Tubeで有名なTwinTurboZ06コルベット1000馬力に装着予定と聞いた。これもテストレポートが届き次第報告の予定。
(6). 塗装に関しての印象。当社のZ06は黒色だが、イエローとルマンブルーの塗装表面の仕上げとはかなり差が有るように感じている。特に車体下部の塗リ肌の違いが大きい。ライトに反射した肌の具合が、ツルッとした感じがイエローとルマンブルー。黒色はかなり大粒の梨地というか粗い感じだ。1000万円近い高価格車レベルに改善を望みたい。近日中に当社の塗装部門で試験的に2回程度の磨ぎとクリヤー塗装のみ行う予定。
空燃比確認テスト実施
Z06の空燃比を正確に測定テストした。測定にはHORIBA製空燃比計を用い、走行条件を変えて正確に測定した。またアンダーボデー(車体裏面)の中央部改善作業にも着手した。詳細は次号にて。