Z06実走レポート No.10
ようやく走行距離が4000kmになった。特に故障等の問題もなく好調だ。走行距離が3000kmあたりを超えてから、エンジンがかなり馴染んだと感じたが、最近は走行距離と共にさらに一段とエンジンが軽くなった。経験からコルベット搭載エンジンは、4~5000km位まで馴染みが続くようなので、5000kmを超えてからの本来の走りが楽しみだ。それと、先日装着したビルシュタインショックアブソーバーで一ヶ月を走ったが、加速時の挙動と高速走行が安定した。この交換は正解だったと断言できる。どうもノーマルショックのセッティングは、後輪の伸び側減衰力が弱く、先代C5の純正ショックも同様のセッティング傾向があった。乗り心地も犠牲にならず、費用的にも2万円/本程度で、安定性の向上を考えるとこれはお奨めと思う。
ところで最近の自動車雑誌では、Z06の関連記事を頻繁に見るようになった。やはり旬の車なる所以か。概ね妥当な評価、無難な試乗記が大半だが、中には疑問なものもあった。Z06に興味を持たれている方々に、Z06を正確にお伝えすべく改めて取り上げてみた。
(1). Z06の排気音
アイドル時は7Lとは思えない位小さく控えめだ。従来のアメリカ車らしい排気音とは明らかに違い、あまりボロボロ音ではない。強いて表現すれば、もっと小排気量スポーツカーを思わせる感じだ。
走り出すと7Lとは思えないエンジンの軽さが印象的だ。ところが3500回転辺りを越えて、マフラーに装着された排気バルブが全開になると、弾ける様な強く太い排気音に変わる。全域において排気音は決して耳障りではなく、500km程度なら楽しみながら走り切れると思う。因みに、マフラーを交換したZ06もこれまた素晴らしく良い。この寒さのなかで窓を全開にして走っているのがその証だ。
(2). Z06及びC6コルベットのシフトレバーの長さ
Z06のシフトレバーは、はっきりと正確に表現するが短い。最初に乗った時の印象はやや短過ぎるかな、と感じた位だ。正確に支点からシフトノブ上端までの実測寸法は200mmとなる。因みにシフト本体が同構造のC5コルベットでは220mmと約10%長くなり、Z51と比較してZ06は10%ショートストロークとなる。因みにFerrariのシフトレバーを測定した所、約260mmとはるかに長かった。雑誌では「トラックの様に長いシフトレバーを操作し云々」となっていたが、明らかに事実と異なる。参考までに、最近のトラックもシフトレバーは短い。
(3). Z06のクラッチペダルの重さ
これも軽い。’06仕様のZ06に初めて試乗した時その軽さに驚いた。比較だが、先代のC5コルベットに比べてもかなり軽くなっている。C3はロッド式リンケージで操作感も悪く重かった。C4は油圧式で軽くはなったが、日本車のレベルには及ばなかった。正確な重さの測定はしてないが、高性能な日本車と同等レベルであることを下記の通り確認した。
来社された日本車オーナー複数名に、実際にZ06の運転席でクラッチペダルを踏んでもらったが、結果は全員が軽さに驚かれ、スポーツモデルの日本車のクラッチペダルと同等、との評価だった。更に驚いたのが、’07モデルのクラッチペダルは、より軽くなっていた事だ。以前のC4に例えるなら、クラッチマスターシリンダーが抜け位の感じだ。実際にショールームで、Z06もしくはC6に座って実際にクラッチペダルを踏んでみることをお奨めする。拍子抜けする軽さに驚くはずだ。
ところが、雑誌では「ずっしり腰に来るクラッチを踏み云々」となっていたが、何を根拠にこの様な表現をするのか甚だ疑問だ。せっかくの試乗チャンスを生かして、読者に正確な情報を伝えて欲しいと思う。
以上の(1)~(3)に関しては、実際にZ06に乗らずに書かれた記事かとも思ったが、執筆者らしき評論家がZ06を運転している写真が併せて掲載されていた。長年アメリカ車を扱ってきたが、率直に云ってやり切れない気持ちが隠せない。執筆者が素人ではなく、れっきとした自動車評論家で優れた人物のはずが、どうもアメリカ車=古い固定観念で書いておこう、と思われ残念だ。
いまやZ06に走行性能で勝るスポーツカーは、少なくとも新車定価2000万円以下クラスでは見当たらない様に思うが、如何だろうか。
その他のZ06に関しての基礎知識として追加しておく。
- Z06のショックアブソーバーはマグネチックライドコントロール付ではない。ザックスの普通のショックが装着されているが、特に乗り心地を優先してか後輪のセッティングが甘い。ショック交換で安定性が増した。
- Z06のデフのギア比はノーマル車と同じだが、高強度のギアが装着されている。ギアが分厚く明らかにノーマル車とは違い互換性も無い。
- Z06のラジエターはノーマルC6と同サイズで、特に大きくはない。
- Z06は直線番長ではない。コーナーも得意だ。
- Z06のブレーキはC6クーペとは全く違い、6/4ピストンキャリパーが装着されローターもはるかに大径だ。
- Z06のフレーム軽合金製で軽い。ノーマルC6は鉄製だ。
最後になったが、冷却系等の容量拡大(ラジエター交換)作業等に取り掛かった。また併せてテストエンジンで、ハイカム装着テストをしたので参考レポートとして、お読み頂きたい。
ハイカム交換テストレポート 推定600馬力超のZ06 4/15
前述したが、Z06のエンジン特性(カム)は素晴らしいと思う。先代のC5に比べてもリフト、度数共に相当ハイカム化しているが、実用性を上手く保って乗り易く、かつすこぶる高性能に仕上がっている。
高速では素晴らしい直進性と加速で他を寄せ付けず、周回路の様な都心高速はコーナーを楽しめ、またワインディングでは2~3速をトルクでコントロールし自在に走れる、楽しい車に仕上がっている。
率直に云って、これ以上のハイカムは必要ないと感じていたが、敢えてZ06の可能性を探る為、試験的にハイカムを装着し試してみた。またECMもカムに合わせて再プログラムした。
まずラジエターの交換は、エンジン脱着と併せて作業すると効率が良い。写真の通りノーマルに比べて2倍の厚さで、水冷式のエンジンOILクーラーとミッションOILクーラーを内臓している。Z06は油温に比べて水温の上昇が早く、通常走行では適切な温度を保てないが、ラジエター内臓式の水冷OILクーラーを装着する事で、油温のオーバークールが防げ正常な水温/油温を得た。
作業後のテスト走行(気温12~13度位)では水温82度油温96度付近を保った。エンジン回転数3000~6800位でかなりのペースを保ち、楽しみながら走っての数値なので適合と判断した。またフロントバンパー下のゴム製カバーを取り去る事で、低速走行時の冷却効果が少しだが向上したようだ。C6クーペには最初からカバーが付かない箇所だが、Z06は何故かカバーされている。
尚、交換したカムは、リフトはLS7より僅かに高い位だが、度数はかなり高く吸排気で228/232度となる。併せてバルブスプリングとリテーナーも交換した。バルブスプリングはデュアルタイプ、リテーナーは軽量チタン製となる。交換はヘッドを装着したまま行った。
作業完了後エンジン始動、予測したがENGINE CHECKが点灯、スキップシフトエラーとクランク角センサー要学習と出た。早速対処してNO CODEとなった。書くと簡単だが対処には時間を要した。最近のコルベットは、コンピュータとのコミュニケーションが出来ないと全くお手上げとなる。
アイドリング時の排気音は、やや野太くなりV8らしさが強調された。要求回転数は895回転と表示され、意外にスムースなアイドリングだが、むろんハイカムらしい脈動は十分感じる。アイドル時の空燃比が適正化されているらしく、アイドリングに不安感は全く無い。
さて再始動後、カムの慣らしを30分程度行い、直ちにテスト走行に入った。速い。特に5500回転付近から7000回転までの回転域において、50馬力近い出力向上が得られるとなっていたが、正にそれを立証した結果となった。当初の吸排気の改善と併せて、600馬力は確実に超えたはずだ。排気音は一回り大きく、野太くなったが、トルクが太い恩恵で乗り難さは無い。但し一般道でのアクセル全開が極めて危険な領域に突入した、というのが実感だが、Z06に改めて惚れ直したのも事実だ。
またパワーバンドが若干上昇したことも確認できた。例えば5速2000回転あたりから加速した場合、2800回転まではやや反応が鈍いが、それを超えると”カムに乗っ”た感じで排気音が明らかに変わる。具体的には甲高さが印象的だ。更に踏み込むと一気に7000回転まで平気でというか、例えるならノーマルの4速で加速しているように吹き上がる感じだ。正直、怖い。文章では上手く表現できないが、5速での加速なので速度は極めて怖い領域に入っている。改めて”ハイカム”仕様Z06の速さの片鱗を見た。
ところで、これはかなりの高速域での症状だが、安定性に問題がある事も確認した。特に風の影響が大きい。横風の影響が少ない区間では感じなかった接地感の無さが、横風の有る区間ではかなり感じた。今の所、外部の空力的付加物の装着より先に、車体下部の整流等の改善策を探る事とした。前後アンダースポイラーで整流しダウンフォースを稼ぐ仕様だ。早速試作に入ったのでこれも近日中にテストの予定。それと連続して上記の様な高速走行を続けた場合、ミッション付近からの異音が目だってきた。一旦パーキングにて休憩した後は静かだが、油温の上昇に伴うのか、しばらく走行すると聞こえてきて耳障りだ。
尚、似た症状の報告はTech Connectにも掲載があった。対策としてはミッションリンケージ接触の有無の確認と、ミッションOILの交換で改善を図ることにする。
それと可能性を探るという前提だが、ハイカム仕様Z06の各回転域での空燃比の煮詰め、吸排気系の仕様変更等でどこまで出力と実用性を得られるか、シャーシダイナモと測定器を使用してテストの予定だ。
中間報告としてだが、現時点ではZ06のノーマルカムの方が間違いなく乗り易い。特に吸排気系を変更して40~50馬力アップしたZ06は最高に面白いと思う。因みにこの仕様でも200マイルは確実に超えるはずだ。但し、これからは気温が上昇するので熱対策が大前提だ。
Z06用ホイールに関して、Z06は18-9.5Jと19-12.0Jサイズのホイールを標準装着しているが、このサイズは歴代コルベットで最大となる。最近驚いた事が、アメリカ製ホイールの高価格だ。Z06サイズの4本セット価格で$3000~$4000となる。東南アジア製では$1200~$1500程度だ。見かけは奇麗だが重量、強度等の確認が必要だ。これらはアメリカ本国での価格だ。中には4本で$4500~$5000も見かける。輸入してタイヤをセットするとかなりの金額になるが、これは要注意だ。日本製NCマシニングで加工された、かなり高品質なホイールも散見するが、中には東南アジア製コピーホイールも有る。しかも鍛造ワンピースではなく、3ピース等の組み立て式ホイールとなる。
ホイールを機能で選ぶと鍛造1ピースとなる。B.べィロン、F.エンツォ、カレラGT等当代きってのスーパースポーツカーは全て鍛造1ピースホイールが標準装着されている。もちろんF1用ホイールも同様で、しかも大半が日本製の時代だ。私見だが、品質、強度、精度、購入後のクレーム処理のどれをとっても日本製が優れていると思う。残念ながらアメリカ製ホイールはノークレームが現状だ。Z06は従来のコルベットと違い、公道に於いてはかなり限界に近い高性能車だ。タイヤ・ホイールの選択は単にファッションだけでなく、Z06の高性能を活かし安全性を考慮して選びたいと考える。
また経験からコルベットの特性として、タイヤ、ホイールの振動(バランス等)が伝わりやすい傾向があった。重いタイヤ/ホイールを装着すると途端に乗り心地に影響が出るのもコルベットの特性だった。これらは主にC4,C5で感じた事だが、残念ながらZ06でも同様だった。
例えば、タイヤバランスが正確でない場合の振動、タイヤそのものも変形、ホイールの中心径がハブ径と合ってない場合等だ。因みにM.Benzやレクサス等は振動が伝わりにくかった事を記憶している。
まとめとしては、
(1). ホイールサイズは純正サイズもしくは1インチアップが無難。
オフセットも数ミリまでが無難。またJWLの刻印がないホイールは車検が難しいだけでなく、強度の確認が取れない事が多い。
(2). タイヤを組む前に、ホイールのみでバランスをチェックする事。
バランスだけでなくホイールの変形が確認できる。またバランスは(バルブを装着して)20g位までが妥当。ホイールの軽い所にタイヤの重い所を組み合わせるのが理想。因みにホイールの強度、精度、変形の少なさは圧倒的に鍛造1ピースホイールが勝る。Z06純正ホイールが1ピースなのもその理由だ。
また2もしくは3ピースホイールの場合、ボルト/ナットで組み立てたホイールの方が強度が確保できる。センターディスクに直接ねじ込むタイプは、原則的に分解、再組み立てが不可能となり強度面でも若干劣る。
(3). ホイールのセンター径が純正装着ホイールより大きい場合は要注意。
理想は装着時にハブに硬く入る位。タイヤ/ホイールの装着は頻繁にはしないので、作業性は無視しても取付精度が高く振動を防ぐ事が重要だ。また取り付け面の面取りも2C程度が理想。スペーサーを装着してもハブセンターを出し易い。(詳細は直接御問い合わせ下さい。)
(4). タイヤバランスは最低3回以上、位置を換えてチェックしないと正確なバランスどりは難しい。
325サイズの大きなタイヤのバランス取りは最低3回位置を換えて測定するが、まず1回では正確にとることは不可能だ。195や205の国産車サイズの取り方と、325や335サイズの取り方は根本的に違う。
長年に渡り、谷田部テストコースでの最高速記録挑戦を続けてきたが、320km超でも振動の出ないタイヤバランスを追求した経験で断言できる。
(5). 最後にやはり軽いタイヤ、ホイールを選ぶ事が大切。
Z06純正タイヤ/ホイールの重量を忘れずに選びたい。Z06純正のフロント重量23.5kg、リア重量27.5kgは決して軽くはなく重い方だ。(1本あたりのタイヤ、ホイールの実測合計重量)間違ってもZ06純正よりも重いタイヤ/ホイールの装着は、せっかくのZ06の走りを阻むことになる。
(6). Z06用鍛造1ピースホイール、TE37はまもなくZ06サイズで発売予定。
強度、精度、軽さ共に競合できるホイールは国内外共に見当たらない。タイヤはPS2、RE050、RE01R、新Pzero等から適合サイズが発売される事を期待したい。