ZR1 実走レポートNo.12
ZR1/Z06の日常点検に関して その2
渋滞時の対処法
ZR1/Z06共に大排気量エンジンを小さなエンジンルームに搭載しているので渋滞は苦手だ。特に気温の高いこれからは渋滞予測が可能なら避けるのが一番。渋滞時の対処法をこれまでの経験で述べてみたい。
1)エアコンのスイッチON
まずエアコンのスイッチは必ずONにする。理由はエアコンがOFFだとラジエターの電動Fanが108度まで作動しない。108度は明らかに適温を20度以上超えた水温なので絶対に避けたい。エアコンのスイッチがONだとラジエターの電動Fanは強制的に作動する様設定されているので水温の上昇が抑えられる。理想的には水温は80~90度辺りの範囲に保ちたい。コンピュータチューニングでも触れたが、水温が100度を超えるとエンジン保護のため、点火タイミングが遅角する等プログラムされているので、本来のPerformanceが発揮できない。
以前白色と黒色のコルベットで真夏の炎天下での車体(Hood)表面温度の違いを計測テストした。計測結果は白色は約40度、黒色は約80度となり、40度の温度差となった。黒色のコルベットはオーバーヒートのリスクが高いといえそうだ。
2)低温サーモスタット(Low Temp Thermo)の装着
これはサービス工場での作業となるが、低温サーモスタットは水温上昇を抑えるのに効果がある。もちろんZ06でも低温サーモスタットは装着して効果を確認したが、ZR1の方がより明確な水温低下効果があった。理由はZR1のラジエターはZ06に比べてかなり大きくなった事があるようだ。ZR1の低温サーモスタット装着は少ない費用で、最も効果のある熱対策の一つとお奨めできる。
3)フロントグリルの網装着
これもサービス工場での作業となるが、フロントグリルの内側に網を装着する事で、虫や木の葉がラジエター及びエアコンのコンデンサーに付着するのを防げる。但しあまり目の小さい網ではなく6~9mm程度で細い線径のものを使用している。ノーマルグリルの格子がかなり荒いのでそれを補う感じになる。
C5コルベット等での経験だが、ラジエターとエアコンのコンデンサーの間に詰まった紙くずや買い物袋等のゴミが、オーバーヒートの原因になった。水温が下がらないとの修理入庫の場合、冷却水が規定量入っているかの確認と、上記のゴミの詰まりが無いかをまず点検することにしている。
とにかくコルベットの様に大排気量エンジン搭載車は、トラブル予防のためにも水温の適温安定を常に心掛けたい。
4)渋滞時のエンジン不調
ZR1とZ06ではZ06の方がカムシャフトのリフト量が大きい、通称ハイカムが標準で装着されている。因みにZ06のカムシャフトは歴代コルベットの中で最もハイカムとなる、という事はこの半世紀のアメリカ車の中でも最もハイカムが装着された車になった訳だ。ハイカムは高回転での魅力が大きいが、渋滞等では乗り難いのも事実だ。OHVのV8はカムシャフトが一本なので、吸気側と排気側のカムシャフトのバルタイをそれぞれ調整する事が不可能だ。国産車で言えば以前のL型エンジンのSOHCカムと似た問題がある。Z06で渋滞時にエンジンが不調になってきた場合等では、エンジンのかぶりの可能性があるので無理は避けたい。
エンジンのかぶりの対処法
渋滞時のGo/Stopの頻繁な繰り返し等で、明らかにエンジンがかぶった場合は根本的にはプラグを外して掃除する様にしている。軽いかぶりなら少し走れば取れる事もあるが、それでも改善しない時はプラグを外して掃除するのが無難と経験上思う。
かなり以前の苦い経験だが、鈴鹿1000kmレースにコルベットレースカーで参戦した時、新しく積み替えたレーシングエンジンをたった1周で壊した事があった。具体的にはエンジンの一番シリンダーのコンロッドベアリング(子メタル)を破損した。原因はレースメンテナンスを委託したレーシングガレージのエンジン担当者の指示で、ドライバーが1速のみでエンジン回転を数千回転に保ってコースを一周した事だった。理由はかぶりを取る為に指示をした、と後で聞いて絶句した。アメリカ車のOHVエンジンは、低い回転域を常用する場合は問題が少ないが、高回転を多用する運転では破損のリスクが高くなる。OIL管理や水温には特に注意したい。またかぶりを取ろうと無理にエンジン回転を上げて低いギアで走る事は絶対に避けたい。30年以上にわたりコルベットの修理に携わってきたが、子メタル関連のエンジントラブルが多かった。油圧の低下、エンジンOILの色がグレーぽくなってくる(メタルの金属粉混入で)等が最初の症状で、やがてエンジンから打音が聞こえてくると、かなり症状が進んだ状態となるので注意が必要だ。
エンジン回転数
意外に思う方が多いと思うが、コルベットレースカーC6R用エンジンの最高出力回転数は、市販車Z06/ZR1の最高出力回転数よりも約1,000回転も低い。これは耐久性の確保が一番の理由と思われるが、高品質な部品で入念に組み上げられたC6R用レーシングエンジン単体のコストは、Z06のLS7エンジンの約5倍となる。
レース用エンジンは高出力/高回転と考えるのが一般的だが、コルベットの大排気量OHVエンジンで耐久レースを完走するには、上記の様に高回転のリスクを徹底的に避ける事が勝利に繋がるといえる。これは2012年度のルマン24時間レースのGTクラスで、CORVETTE C6Rが優勝した事でも明らかだ。